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音響のお話。その3

 

音響の人、矧矢です。

 

「その3」という事で、プチシリーズ化しているような気がしないでもなきにしもあらずんば(どっちだよ)な今日この頃です。

 

「その2」の更新が3月末だったので、5ヶ月も空いた事になりますね、やっぱシリーズ化はしてないですね(笑)

 

さて、矧矢のブログは例によってダラダラ長いので、お時間ある方はお付き合い頂ければと思いますのでよろしくお願いします。

 

 

矧矢はまだまだ経験が浅いのですが、一応音響の人間の端くれです。

 

そんな駆け出し音響の矧矢が感じた、「音響の人にとっての演劇とインプロの違い」についてが、今回のメインテーマとなります。

 

あくまで矧矢個人の意見ではありますが、「演劇は減点式」で「インプロは加点式」なんじゃないかなと思います。

 

演劇って、セリフも動きも音響も照明も全て段取りが決まっていて、それを気が遠くなるほど反復して全員で身体に染み込ませていきますよね。

 

基本的には、稽古通りにミス無く進めていく訳ですね。

 

もし、曲を流すタイミングがズレたり、間違った効果音を鳴らしてしまったらどうなるでしょうか。

 

観客からすれば、「今日の舞台、音でミスがあったよね」という印象が残りやすくなってしまうのです。

 

もちろん、「素敵な音楽だったね」とか「良いタイミングで曲が入っていたね」という感想も貰える事はあるでしょうが、どうしても「音響はノーミスで当然」な所がある気がするのです。

 

つまり、「演劇は減点式」というのは良いオペよりもミスの方が目立ちやすいという事です。

 

 

一方でインプロではどうでしょうか。

 

即興ですから当然シーンの中で段取りはありません。

 

先の展開が読めない即興の場でシーンに合った曲を流すのは、非常にリスクの高い行為です。

 

でも勇気を出して「こんな曲はいかが?」と演者と観客に提案する。

 

それで会場全体に「良いね!」という空気を生み出す事が出来たらこっちのもんです。

 

また、「最初から流れが決まっているのかと思った」「打ち合わせしてたでしょ?」というご感想を時々頂くのですが、これは音響の人というよりもインプロの人にとってはご馳走みたいなものです。

 

そういう意味で、「インプロは加点式」なのではないかなと思うのです。

 

 

さて、「インプロは加点式」であると強く感じたエピソードがありましたのでご紹介していきたいと思います。

 

時間はさかのぼりまして、7月19日の事です。

 

『小林賢太郎の「本」公演 ~絵本と漫画と短編小説の、読み聞かせとメイキング話~』というものが、栄のナディアパークであったんです。

 

 

 

チケットが1枚余ってしまったので、急遽しばいぬ団員おちゃこさんを誘って観に行きました。

 

小林賢太郎さんは『ラーメンズ』というお笑いコンビの方なんですが、緻密な計算に裏打ちされた笑いを作られている方で、矧矢が表現の世界に飛び込むきっかけとなった存在なんです。

 

もう10年位前の事でしょうか、矧矢はラーメンズ好きをこじらせにこじらせ、地元の友人と共に『Rahmens Fun Radio 75.8』というネットラジオをニコニコ動画で数年間やっていたのです(当時はプーチンと名乗っていました)。

 

当時、「ちょっと機材凝りたいよね」なんて言って相方とお金を出し合ってマイクとかミキサーとかサンプラーとかを用意して宅録していました。

 

そんな中で音声・動画編集をやったり、番組内でのプチコントの脚本を書いたりしていたのが、ラジオドラマを制作する声の劇団「シグマ」というサークルでの脚本・演出・収録・編集という裏方全般を担当し、そしてしばいぬ海賊団では音響の人(最近、オフィシャルでは音響オペレーターと名乗らせて頂いています)となるに至った訳です。

 

そんな、「尊敬している人は誰ですか?」と聞かれたら「ラーメンズの小林賢太郎さんです」と即答してしまいそうなほど入れ込んでいる矧矢なのです。

 

小林賢太郎さんのプロフィールを紹介するはずが、聞かれてもいない矧矢のルーツを自ら晒していましたね、脇道も脇道でした。

 

 

「本」公演に話を戻しましょう。

 

普段の公演ではあらゆる演出が計算に計算を重ねて作り上げられるのが小林さんの舞台なのですが、今回は実に緩やかで肩の力が抜けた内容となっていました。

 

おそらく大筋の流れは決まっていたのでしょうが、「あ、ここはアドリブだな」とか「何か思いついたんだな」と感じる事が随所にありました。

 

中盤の出来事でした。

 

話の流れでホワイトボードに絵を描く流れになったのですが、小林さんが絵を描き始めると薄く曲が流れ始めました。

 

その時に小林さんが「あ、音声(音響)さんありがとう」と言ったのです。

 

実に何気ないやり取りだったし、公演そのものを左右するような出来事ではなかったのですが、矧矢は大きな衝撃を受けました。

 

 

これこそが、『音響の加点』なんじゃないかと。

 

 

きっと音響の人は、「無音が続くと寂しいな、曲を付けたら雰囲気出るかな」と思ったんだと思います。

 

手元にある何曲(あるいは何十曲)かの中から、シーンにそっと花を添えられる曲を選んで流したのでしょう。

 

小林さんは時々、イレギュラーのようなものやアドリブのようなものを演出として取り入れる事があるのです(代表的なものとしては『The SPOT』の途中入場)が、もし決まり事であればこの場面だけ「あ、音声(音響)さんありがとう」という言葉が出る説明にはなりませんし、そもそも今回の公演ではそんな事をする必要はありません。

 

演者がアドリブをするのはリスクを伴いますが、それは音響だって同じです。

 

あれが音響と演者に対話が生まれた瞬間で、音響も演者の一部である所以なんじゃないかなと矧矢は勝手に思っています。

 

言葉としては実に小さくさり気ないものではありましたが、もしあの音響さんが矧矢だったらエクスタシーしているか号泣するかのどちらかだと思います(笑)

 

 

音響さんは裏方ではありますが、色んな事を考えたり感じたりしながら公演をより良い物にしようと頑張っています。

 

もちろんインプロショーではステージ上でリスクを負いまくっている演者さん達を一番に観て貰いたいです。

 

でも、このブログを読んでちょっぴりでも音響という存在を頭の片隅に置いて貰う事が出来たら、インプロショーはより楽しいものになるんじゃないかと思うのです。